MIT-Jとは
音楽の音程とリズムとを活用し、失語症患者の「話す力」を回復する医療リハビリ技法

MIT-J(MIT日本語版)は、音楽の音程とリズムとを活用して、失語症患者の「話す力」を回復する医療リハビリ技法です。
失語症の症状の1つである、「言葉の理解はできるが、話そうとするとしゃべりづらい症状がある」失語症患者向けに、発話改善のために行います。1970年代にアメリカで発表された、失語症の発話障害への有効性が確立した「メロディック・イントネーション・セラピー (MIT) 」 を、原法である英語とは言語構造の異なる日本語に対応した「MIT日本語版 (MIT-J) 」として、本協会・関啓子会長が1983年に発表し、原法と同様の効果を持つことを報告しました。脳科学に基づき、特にブローカ失語の患者に有効とされます。(1994年米国神経学学会ガイドラインより)
MIT-Jの仕組みと進め方

【仕組み】
”歌う”ように言葉を繰り返し練習することで、左脳が担う”話す”機能を右脳に肩代わりさせます。右脳の”音楽認知機能”を刺激し、左脳損傷の”言語機能を補う言葉の表出を促す「迂回路」を作ります。つまり、MIT-Jによって、左脳ダメージ部分が回復していくのではなく、右脳を介して言語機能を補っていくように変化していく、ということです。
以下で詳しく説明しています。

進め方
治療者(主に言語聴覚士)と患者が対面で座り、治療者が患者の左手を取り、リズムに合わせて上下に手を振りながら、話そうとする文や単語の音程に合わせて”歌う”ように口ずさむ練習をします。練習する単語や文をを棒読みせずに高低のアクセントを付けることが、MIT-J最大のポイントとなります。
患者様の左手をとるのは、右半球に手からも刺激を入れるためです。
段階的に練習していくと、話せる言葉数が増え、だんだんと自然の発話ができるようになっていきます。
MIT-Jは、患者様の症状に合わせて、レベルⅠ〜レベルⅣまで段階的に進めていく体系的なプログラムです。

レベルⅠ・・・ハミング
MITの導入部で、音楽を使って楽しい雰囲気を感じながら基礎的な経験を積むのに重要なステップです。ハミングを用いて患者様が歌うように意識付けを図ります。
ステップアップには、達成条件があります。
MIT-Jデモ動画(レベルⅠ)
レベルⅡ・・・単語(文)の即時復唱
レベルⅡの中でも、ステップ1〜4まで段階を踏んで行います。
ステップ1(斉唱)
ステップ2(フェーディング)
ステップ3(即時復唱)
ステップ4(質問応答)
レベルⅢ・・・文の遅延復唱
レベルⅢの中でも、ステップ1〜3まで段階を踏んで行います。
ステップ1(斉唱+フェーディング)
ステップ2(遅延復唱)
ステップ3(関連質問)
レベルⅣ・・・スピーチソングから通常発話へ
レベルⅣの中でも、ステップ1〜4まで段階を踏んで行います。
ステップ1(スピーチソング斉唱+フェーディング)
ステップ2(スピーチソング遅延復唱)
ステップ3(通常発話遅延復唱)
ステップ4(通常質問)
※スピーチソングとは、「スピーチと歌の中間にあるテクニック」です。
以上のように、文字だけでは、技法内容がわかりづらいのがMIT-Jの課題でもあります。
用語説明、技法などの詳細は、リハノメ「MIT-Jオンラインセミナー」にて動画解説しています。
患者様・ご家族の方へ:
失語症を始めとする高次脳機能障害全般について正しい理解を深める講座を配信しています。
講座受講後に、MITアンバサダー資格を取得することが可能です。
医療従事者の方へ:
MIT-Jの技法を習得し、医療・福祉現場で失語症患者に対し、MIT-Jを正しい方法で実践する方法の講座を配信しています。治療者としてMIT-Jを施術するには、当協会認定資格「MITトレーナー」を取得する必要がございます。
・MIT-Jの成功症例
【MIT-Jを実施し、短期間で発話の改善がみられた左利き重度ブローカ失語の一例】
(対象)60代後半・男性・重度ブローカ失語症者/回復期病院入院中・診断名:出血性脳梗塞
X年Y月Z日、右口角下垂、失語が出現しA病院へ救急搬送。リハビリ目的にZ+16日に転院。同日より、PT·OT·STリハ開始となる。入院当初は、歪んだ母音のみ発声可能。有意味語の表出困難。発語したそうな語の抑揚はなんとなく保たれていた。
MIT-J介入前(Z+16日~29日)
音声表出練習は行わず、評価と理解·書字練習を実施。
入院当初は、歪んだ母音のみ発声可能。有意味語の表出困難。発語したそうな語の抑揚は何となく保たれていた。音声表出練習は実施していなかったが、Z+28日、試しに名前の表出を促すと、姓をたどたどしく表出可能。名は発語失行重度で歪み大きく最後までの表出は困難であった。それまでは、時折「はい」と表出あるが、ほとんど「あー」「んー」「うー」に加えジェスチャーで表現されるのみであった。
MIT-J介入後(Z+30日~42日)
- 1回40分/日、週5日×2、計10日間
Before
MIT-J 10日目(Z+42日)
達成レベル:レベルⅣ 2文節
After:
MIT-Jが適応かどうかは、医療従事者による診断が必要です。
そのため、当協会は治療者である「MITトレーナー」の直接のご紹介はしておりません。
MITトレーナー一覧をご覧いただき、お近くの医療機関へお問い合わせください。
MIT-Jの適応基準
(1)両半球損傷でない。左半球損傷(ブローカ領域含む)
(2)聴覚的理解が良好
(3)非流暢性で努力性の発話
(4)発話は限定されるが、明瞭度は保たれている
(5)復唱は不良、単語レベルでも困難
(6)訓練に意欲的、情緒が安定し、持続的に集中可能
→ブローカ失語(失語失行)が最適(一部の伝導失語にも適応可)
訓練頻度の目安
MIT-Jは短期集中型の言語療法です。
訓練時間は1日40分、週5日実施し、2週間で合計10回の実施が基本です。